汁椀の漆器修理です。
依頼品は全部で5客あり、下地が剥離している箇所が多く見られました。
この椀の下地はうまく木地に喰い付いていないので、残った箇所も今後剥離していくと思われます。
その為今回は下地を取り除き、輪島塗の工法で堅牢な下地を付けていきます。
漆が変色している椀の内側を空研ぎ用の粗い砥石で磨いていきます。
そうすると下地が面白いようにポロポロ取れていきます。
汁椀の下地を全て取り除き、木地の状態にします。
補強の為傷みやすい椀の上縁と高台にのり漆で布を貼ります。
この布は綿糸でできた寒冷紗です。
これで簡単に木地が割れることは無くなるでしょう。
布と木地の段差を埋める為に惣身(そうみ)漆を付けました。
惣身漆とは生漆と米のり、そしてケヤキの木粉を煎って炭化させた惣身粉を混ぜたものです。
汁椀に下地漆を付けます。
下地の漆は砥の粉、米のり、生漆、そして地の粉を混ぜたものです。
地の粉には一辺地粉、二辺地粉、三辺地粉とあります。
これは粒子の細かさの違いで一辺地粉が一番粗い粒子のものです。
その為まずは一辺地漆を付けます。そして輪島ではこの時に地縁(じぶち)引きという作業も一緒に行います。
これは欠けやすい上縁と高台の強度を増す為に下地を付けた後、上縁と高台に生漆を塗る作業です。
堅牢な輪島塗はこれらの作業でよって生まれます。
上の写真は地縁引きの際、上縁に生漆を塗る為に使う桧皮(ひかわ)へらです。
桧(ひのき)の皮にのり漆で麻布を巻いて、へらの形にしたものです。
桧皮へらの先端は桧の皮を露出させ、ほぐしてあります。
へらと呼ばれていますが刷毛のように使います。
錆漆をヘラで付けます。
この時の錆漆は下地漆より薄く付けます。イメージとしては低い所に錆漆を摺りこんで平らにする感じです。
輪島ではこの作業を目摺(めすり)といいます。
錆漆を水研ぎした後、中塗りを行います。
最後に上塗りを行い漆器修理完了です。
上塗りは埃などの小さなゴミが付くことも許されません。
今回も綺麗に上塗りができ、依頼者も満足していただいたので私共もとても嬉しかったです。
依頼品は欠けている箇所が幾つかあり、漆の艶も落ちています。
そして依頼者は輪島塗の工法で修理を希望されていました。そのため布着せを施し、一から下地を行います。
布着せを行うためにはまず以前の下地を研ぎ落とさなくてはなりません。そうしなければ布がうまく接着できないからです。
布着せとは木地の欠け易い上縁、高台を布を貼って補強することです。布はのり漆を用いて張り付けますがなかなか難しい作業です。
木地と布を貼った段差を埋めるために惣身漆を付けます。惣身漆とはケヤキの木粉を煎ったものにのり漆を混ぜたものです。
地の粉を入れた下地漆を付け、乾かし、研ぐを三度繰り返します。
地の粉には一辺地粉(鏡粉)、二辺地粉、三辺地粉とあるのですが、数が増えるごとに細かい粉になっていきます。仕上がりに近づくほど表面は綺麗になります。
(写真は二辺地付け)
外側は溜塗りに仕上げて欲しいという依頼でしたので、上塗りの前に朱漆を塗ります。
朱漆が乾いたら水研ぎし、上塗りになります。
外側に朱合漆、内側に黒漆と朱漆をそれぞれ上塗りして修理は完了です。